えー、足元のお悪い中、本日もご多数のお客様にご来場いただき御礼申し上げる次第です。しばらくの間ばかばかしい話にお付き合いの程よろしくお願いいたしたく……。
なんでも昨今は猫ブームとやらで、猫人気が犬人気を逆転した~なんて調査結果もあるようでして……。
かく言う我が家でも一匹の猫を飼っておりまして。
実を申しますと、家のかみさんが無類の猫好きときてまして……。
わたしはって言うとどちらも苦手なんですが、家庭内での上下関係でやむおうえず、えっ? 前のお客さんとこも一緒?(笑い)
この会場にご同輩がいて心強い。
で、とあるイベントで猫の里親探しのコーナーがあったとかで……。
かみさんが言うにはその会場にいた猫と目が合って、「お願いもらって」と訴えてきたと申しておりました。猫と会話ができるなんて、かみさんと添い遂げて10数年程になりますが、全くの初耳で、思わずわたしが「にゃー」と一声鳴いてみますってえと家のかみさん「お小遣いの値上げはお預けだからね」と申しまして、確かに猫語を理解しているようです。(笑い)
事の真偽は置いておくとして、縁あってその猫は晴れて我が家の一員となったわけであります。
でえ、その猫の名前なんですがね、皆さん皇帝をドイツ語でなんて言うかご存知ですか? 英語ではエンペラー、ロシア語ではイムピラータル、イタリア語でモナルカ。
ドイツ語ではカイザーと言うらしいんですなあ。
何せ過去に飼った猫の名前は、「殿さま」「アントワネット」「SHOWGUN」「ナポレオン」「ヒミコ」ですから、かみさんのネーミングセンスは押して知るべしと言うわけでして……。
かみさんのネーミングの傾向から先回りして、わたしが「カイザー」でいいんじゃないのかと提案したところ、それだと平凡すぎると突っぱねられまして、皇帝は「カイザー」、皇帝の妃は「カイゼリン」あるいは「カイザリン」と言うらしいですな。
そういった訳で我が家の第6代お猫様のお名前はめでたく「カイゼリン」ちゃんと決まったわけです。
……んんん、しかしオスなんですがねその猫は……。 (笑い)
いったいどういた訳でしょう? サッパリ分かりません……しかも雑種でして「いきなり名前負けしてないかと?」ツッコミを入れた次第です。
が、聞こえたのか聞こえなかったのか「カイゼリン」ちゃんは私の胡坐をかいた膝の上でお楚々を早速やらかして下さりました。(笑い)
もっぱら「カイゼリン」のお世話はわたしの日課。
ある日猫用トイレの中に黒くて、オブラートに包んだ言い方ですと見た目は「カリントウ」の様ですが、察し良いお客さんならお判りでしょう……。そうあれです、「う」から始まるあの憎らしいブツです。
その若干香ばしい臭いを発する個体がゴロンと転がっていると、うちのかみさん、こんな時だけしおらしく「ねえ、あなたカイゼリンちゃんが奇妙なものをお尻のあたりから出したの、何かしら? 気味悪いからあなた始末してお願~い」と猫なで声で訴える塩梅で、日々我が家のお猫様の身の回りのお世話は専らわたくし執事の仕事となっております。(笑い)
……みなさんも、精々かみさんと猫には十分お気をつけ願いたいもので……。
猫 ねこ ネコ 寝子 金子
世間一般のやんわりまったり癒し系って言うんですかね、そんなイメージ先行のきらいもありますが果たしてその実情はって言いますと、凶暴で破壊魔王、猫無頼、猫無罪なんて申しまして。
猫缶て~言うんですかね。
猫専用の缶詰なんて~のは、最近では一缶500円以上もする高級缶詰なんてのもあるようでして、ご存知でしたか?
よっぽどわたしの酒のあてより豪勢なお食事事情って事で、うらやましいやら妬ましいやらで、もう……。(笑い)
それはそうと、
猫が使われてることわざ、なぜか悪いものばかりでしてね。
猫に小判、猫のひたい、猫なで声、泥棒猫など。
そのところ、肝心の猫はどう思っているのか猫自身に問うてみたい、なんて思う次第でして……。
え~、とある年末も押し迫った忙しい時期のこと。
取引先との連絡ミスで慌てて書類を、パソコンで打ち直しているところ、わたしの携帯が、ぶるぶると震えて通話の合図をするもんですから一旦仕事の手を休めて電話に出てみますってと、いつも与太話をふってくる昔なじみで未だに腐れ縁が続いています男友達からでして……。
そいつがいきなり猫の話をし始めたんですな……。
なんでもその友人、最近テレワークとらやで、ストレスが溜まる一方だからペットでも飼おうと、ペットショップに行ったんだそうです。
ところがどの猫も、目ン玉が飛び出るほど高価な値段がしたそうで。 でもって、なくなく諦めて自宅へ帰る途中、偶然道端でダンボールに入った一匹の捨て猫が「にゃ~」って鳴いたんだそうです。
そいつが言うには、目が合ったその子猫ちゃんに、「お願いもらって」と、どこかで聞いたようなセリフを言われたんだとか。(笑い)
結局その猫を自宅に持ち帰った友人、その捨て猫を書い始めたんだそうで……。
「なに? お前猫飼いだしたの?」
「へえ、初耳だねえ」
「で、どんな種類の猫なんだい? アメショー、アビシニアン、それとも日本猫?」
「お前さんが猫好きだなって知らなかったなあ……」
いつの時代も猫を捨てるやつているんもんですな。
すると、そいつが妙なことを言い始めましてね。
「え? お前んとこの猫は言葉をしゃべる?」
「まさかあ、九官鳥やインコじゃあるまいし?」
「えっ? そんなんじゃない?」
「人間の言葉を理解して、普通に受け答えする?」
しまいに猫と人間とで会話が成立するとまで言い出しまして。
「冗談言っちゃいけないよ、そんな事ありっこないでしょうが」
「喋る猫なんて聞いたこありゃしない」
「そんな事以前に猫が人の言葉を理解できる訳ないじゃないか?」
マンガや小説、映画の世界じゃあるまいし……。
「んん~、そもそも漫画みたいに動物が人間の言葉をしゃべれるなんてあり得ないの」
ええっ!? そうでしょ?
「よく考えてみなよ、口やのどの構造からして発声できないってことぐらい今日びの小学生だって知ってるやがるってんだよ、こんちくしょう!」
「いやいや、現実に目の前にそんなありえないことができる猫がいて何? 今ちょうど俺が寝てる布団の上に上がってきて? あんな大きな図体をして4キログラムくらいしかない?」
「しかも自分で寝間着(パジャマ)に着替えて布団の上で丸くなってる?
「お前さん可笑しなことを言うねえ」
だって大きな体って……猫なんてせいぜい軽く片手で持ち上げられる程度の重さしかないんだから5キロや6キロが関の山だろう。まあ中には10キロを超える、家のかみさんみたいに巨大肥満猫もいなこともないではないが……。(笑い)
「それがいるんだからしょうがない? 身長……ああ、体長って言った方がいいのかな……168センチの巨体で5キロ、それだからお前さんの体の上で丸くなって寝てられるってえか?」
「額に手を当ててみな。お前熱でもあるんじゃないの?」(笑い)
(中略)
「なに? ますます合点がいかないねえ」
「話を聞いてるこっちが熱を出しそうだわ」(笑い)
「んんっと、それじゃあ取りあえず今までのお前さんの話をまとめてみるってーと……」
「身長168センチ(推定)、体重5キログラムで人間の言葉を理解できてしかも流暢に喋れて……それから……」
顔を洗って、服も着て……。
「ああ、そうそう、服を自分で着替えることができる? だったっけ。それから朝昼晩と3食、人と同じ飯を食って、ほぼ毎日高校の制服に着替えて学校にも通っているって? それから好物はケンタッキーフライドチキンと濃い味付けのスケソウダラの煮つけっと……この辺はやけに具体的だねえおい……(笑い)しかもだいぶ渋好みで年寄り臭くないかい?」
「……それで制服フェチでオタク趣味、犬が嫌いで、ネズミを見つけるとついつい追いかけてしまう。お年寄りに可愛がられて、飽きっぽい性格。一日のうち18時間くらい寝てるっと。お尻をなでると「イや~ん」と鳴く? えっ、それは言ってない?」(笑い)
「ああそういうことかい。もう話はそれくらいにしておきな、十分聞いたから大方検討がついたわ」
「やっぱり、わたしをかついでるんだろう? 暇だね――っ、要するにお前さんが言うところの猫って……それってまさしく……人間じゃないか。そうだろ、ただの人間だろ?」
「今まで何度、お前さんの冗談に付き合わされたと思ってるんだ。からかってもバレてるっての。白状しちゃいな。ただし事と次第によっちゃあ承知しないからね。もしもその人間、しかもかわいいピチピチの若い女の子だったらたたじゃすまないよ!」
そうわたしが声を荒げて言いますってえとその友人、ようやく白状する気になったようでして……。
「え? マジ? 本当だって? 見た目は15、6歳の女の子だって? JK? それはないだろうさすがに。お前さんにそんな了見があれば、とっくの昔に奥さん見つけて世帯もってるでしょうが。そんな冗談通じないよ。何年お前さん与太話に突き合わされてると思うんだい。わたしには全て見通しだってーの!」
あ~あ、そんな与太話に付き合うのは止めだ止めだ。
「どうせ、『ネコ』というあだ名の人間だっていう落ちでしょう? あっ、分かった! 金子さんだ、それだったら合点がいくわ」
「そろそろ電話切りますよ。なまじ仕事が出来るもんだから、あちこちから仕事押し付けられちゃって、こっちは勤務時間内に処理できない仕事がたまって、とうとう夜勤帯に突入だよ。も―う! こんなことならいっそ、猫だけに「猫の手も借りたい……」
「『猫の寝床』の一席でした」
♪たんたたたんたんつったんたんたん……♪ 出囃子)