目覚めると、朝日とは違ったやけに白い光が部屋に差し込んでいました。カーテンを開けると、初雪がひらひらと舞い降りていました。家を取り囲む木々は雪の葉をつけ、そこに二匹のカラスが肩を寄せ合い留まっています。
足元では、銀次がその様子をしげしげと眺めては、たまに私の顔を見上げてきます。
銀次とは、私の家にいる愛猫です。その名の通り灰色の毛を銀色に輝かせています。
先日、お母さんが病気で亡くなってから、銀次は毎朝この窓から外を眺めています。私もいつのまにか、銀次と外を眺めるようになりました。
母を失った悲しみから、肩に岩を乗せたように身体が重く、学校を休んでしまっています。
「銀次、待っていてもお母さんは帰ってこないわよ」
そう言っても銀次には伝わらないでしょう。その方がいいのかもしれません。お母さんを失う悲しみを知らずに済むのだから。
銀次は私を見上げて、ニャーと鳴く。その声さえも、お母さんの声に聞こえます。よほど疲れているのでしょう。
とりあえず、日記はここまでにします。
吾輩は猫である。名前は銀次。
子猫の頃に母上に拾われて、以来7年この家で世話になっている。人語も多少はわかる。この娘によれば、猫が人語を話す時には自分を吾輩と言うらしい。
「銀次、待っていてもお母さんは帰ってこないわよ」と、娘が言う。
そんなことは、わかっている。吾輩は母上が病気で死んでから毎日のように外を眺めるようになった娘に付き添っている。
それにしても、この娘は気づいていないのだろうか。
母上なら、後ろに立っているではないか。